2002年9月 ブラジルの旅(その二)
 
 ブラジルは資源大国である。日本のように資源の殆どを輸入しなければ国自体が成り立って行かないようなところから見ると、例えば食料が百パーセント自給出来ているということ一つ取り上げても誠に羨ましいかぎりである。食に困らないということは人間存在に直接拘ることだけに実に重要なことだ。お天道さんとおまんまは何処へ行っても付いて回る!などと呑気なことを言っていられたのは昔のことで、今日のように外国にその大半をおんぶしている状況では何か突発事件でも起きて輸入がストップすれば日本人は忽ち飢え死にしてしまう。純日本的なものと思われている蕎や豆腐などにしても実は殆ど外国に依存している。そう考えると日本の繁栄などというのは実に危なっかしいものだ。

 その点ブラジルは豊かである。朝食に出される豊富な果物の山を見るに付けても、この国の人はどう転んでも飢え死にすることはない、と実感させられた。その外、鉱物資源も殆どが産出され、最も重要な石油にしても七十五パーセントは自給出来ているというのである。中東で何かあるたびにひやひやしている我々から見れば当に垂涎の的というべきである。大地は赤に近い褐色で、実に地味は肥えており、だから作物はよく育つ。国土も 温帯から亜熱帯にかけてあるために、気候風土にも極めて恵まれている。アマゾンの大自然は地球上の三分の一の酸素を供給しているそうだ。そんな豊かで広大な大地に一億四千万人の人が暮らしている、これがブラジルである。一部にはアマゾンの乱開発などが報道され、自然保護には全く無関心なのかと思っていたのだがそれは大いに認識不足で環境保護には殊に厳しく徹底しているのだという。これだけいろいろ恵まれた国ならさぞかし生活水準も高く住む人もおおらかでこの世の天国ではないかと思われるが、それがそうではないのだ。E氏にこちらの平均賃金はどれくらいですかと尋ねると、それはちょっと難しい質問ですと言われた。何故かというと、富めるものは篦棒な贅沢をし、一方では沢山のスラム街が在りその日の糧にも困窮している人がいる。だから平均といわれてもなかなか算出しにくいのだというのである。つまり 猛烈な貧富の差があり、それも金持ちといえば日本なら大会社の社長といってもせいぜい五千万から一億ぐらいだろうが、ブラジルの金持ちは桁が違う。サンパウロの高級住宅街に五千坪もある大邸宅を構え、何十人ものメードを使い一等地に別荘をいくつも持っている。さらにヨーロッパ各地に豪勢な別荘を構え、何ヶ月も出掛けてはのんびりと生活をエンジョイし、国内は自家用飛行機で飛び回るというような具合だ。その一方でリオなど では小高い山裾に膨大な数のスラム街がびっしりと張りつくように見られる。「此処へは生きて入っても再び生きては帰れないですよ!」とガイドの婦志子さんが説明してくれた。この絶対的矛盾はどう考えたら良いのだろうか。
 ところで我々一行はリオの有名なコパカバーナ海岸添いのホテルに宿泊した。この辺りはリゾート地として世界的に知られており、とりわけ有名なのはトップレスの美女が見られることらしい。「今回も見られますかね〜。」と同行のE氏がガイドの婦志子さんに尋ねると、ちょっと首を傾げて、多分無理でしょうという。それはこう言うことだ。元来トップレスは法律違反なのだそうで、最近ある ご婦人が見回り中の警察官に逮捕されてしまった。隣にはご主人が居て抗議した。ところが法律違反には違いないのだから警察に来いということになり、それから喧々囂々の大騒ぎになってしまった。連日新聞は大々的に取り上げ騒ぎは大きくなるばかり。そのうちこんな馬鹿げたことにうつつを抜かしている間に、もっと麻薬犯罪などの重要な取締りをしたらどうだい!、などという議論にまで発展し、ついに怒った市長は、以後トップレスは勝手にしなさいという法律を作ってこの間題に決着を付けた。ところが途端に一人もトップレスになる美女が居なくなってしまったというのである。馬鹿なお笑い話ですまないが、四キロにも渡る美しい湾を眺めていると、そういう人が居ても少しも不思議ではない雰囲気である。

 それはともかくとして、あらゆる埋蔵資源があってしかも貧しいのには教育の問題があるらしい。この国では先生と警察官の給与があまりにも低いのだそうで、これでは良い教育者は育たないのではないか。また国家を支えるリーダー達にはおおよそ愛国心などというものは微塵もないようで、国というものは個人が利益を享受する源と考えているらしい。国家の財源をいかに上手に利用して自分の利益に結びつけるか、これが彼らの最大の 関心事なのである。つまりあらゆる資源に恵まれたブラジルに一番肝心な人間という資源が枯渇しているのである。

 

 

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