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2013年05月10日

多様な視点

山極寿一さんと言うゴリラ研究の第一人者が興味ある文章を寄せられていた。『芥川龍之介に「桃太郎」という短編がある。桃太郎がサル、イヌ、キジを連れて鬼ヶ島に征伐に行く有名な話を鬼の側から描いた話である。豊かで平和な暮らしを突然たたきつぶされた鬼たちがおそるおそる、何か自分たちは人間に悪さをしたのかと尋ねる。すると桃太郎は、日本一の桃太郎が家来を召し抱えたため、何より鬼を征伐したいがために来たのだと答える。鬼たちは自分たちが征伐される理由がさっぱりわからないまま皆殺しにされてしまうのである。笑い話ではない。つい最近まで、これと同じ事が起きていたのである。アメリカインディアンは白人とみれば理由もなく襲ってくるどう猛な民族で、撃退し滅ぼすことが美談とされた。しかしこれらの考えが土地を侵略した側が作った身勝手な物語であると分かってきた。不公平な取引をさせられ、伝統と文化を捨てさせられた人々が抵抗している姿を、悪魔の仕業のように語っていたのである。今もこうした誤解に満ちた物語が繰り返し作られている。9・11の後、アメリカはイラクが大量破壊兵器を持ち世界の平和を脅かすと決めつけ戦争を始めた。人間は話を作らずには居られない性質を持っている。言葉を持っているからだ。私たちは世界を直接見ているわけではなく、言葉によって作られた物語のの中で自然や人間を見ているのである。個人は皆優しく思いやりに満ちているのに、なぜ民族や国の間で敵対関係が生じるのか。物語を作り手の側から読むのではなく、多様な側面や視点に立って解釈して欲しいものである。新しい世界観を立ち上げる方法が見つけられるはずである』。昨年来、中国での抗日デモの凄まじいばかりの様子を見ていると、山極先生の話がいっそう身近に感ぜられ、日本人も中国人も双方高い見識を発揮して欲しいと願うばかりである。

投稿者 zuiryo : 2013年05月10日 20:42

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