« 友遠方より来たる | メイン | 緑のカーテン »

2011年05月07日

がん哲学

がん哲学、などと言う言葉に不審を抱かれたと思いますが、これは私の勝手な造語ではなく、立派な医学博士の書かれた本の表題である。読み進むうちに成る程と合点した。さてがんは今日、日本人の二人に一人は罹り、三人に一人は死ぬという国家の命運が掛かっている重要な問題である。殆どの病気は専門医に診て貰い適切な処置を施して貰えばほぼ完治するが、がんは今なお先端医療を駆使しても難攻不落、完全に治すことが出来ない厄介な病気である。がん治療薬の研究では最先端をいっている学者でも、人類が癌を克服出来るまでには後百年かかると言われている。近年私のかけがえのない友人を次々にがんで失い、小心者の私などは明日は我が身と、ひしひし感ずる日々である。そこで定期的検診を真面目に続けており、幸い今のところ癌の宣告を受けていないが、決して安閑としてはおれない心境である。そんな折り、「がん哲学外来の話」(樋野興夫著)と言う本を読んで、大変興味が沸いたので此処にご紹介させて頂く。
『…顕微鏡で見るがん細胞のミクロの世界で起きていることは、人間社会で起きていることと驚くほどにている。実に独創的かつ自在性に飛んでいる。その智慧と輝く個性には目を見張る。がん細胞のたくましさ、賢さから私達人間社会が学べることは決して小さくない。…がんはたった1個の細胞の小さな遺伝子変異からスタートする。その細胞が分裂を繰り返し10億個にまで成長して初めて1センチの早期がんになる。ここまでに5年から10年かかり、さらに立派な臨床がんになるには20年はかかると言われている。つまりがんが大成するには大変な時間がかかるのである。1000個のがんの芽があっても、大成するのはせいぜい1個、ほとんどは途中で死滅してしまう。生き残るのは相当な強者である。さて問題は何故生き残れたのかである。一つの細胞のがん化から初期病変を経て臨床がんになるまでには、幾つもの階段を上って行く手順を踏まなければならない。がんは辛抱強く尺取り虫の如く、その手順を踏んでいき、決して性急に先を急いだりしない。また与えられた環境に応じて自由に顔つきを変える。がんは自らの形に固執せず、自由自在に形を変えて、たくましく生き延びてゆく。郷に入ったら郷に従う賢さを持っている。また飢餓状態にもめっぽう強い。正常細胞の十分の一の栄養で生きられ、自分で作り出したものを外に出し、その回転で外にある欲しい物を取り込む。先ず自分から与えることで受け取るという知恵があるのだ。大したものではないか。…がんは誰からうつされたものでもなく、いわば、「身の内」なのである。例えると、自分の家から不良息子が出たようなもので、親のコントロールが出来なくなる。親は何とか更正させようと悩み苦しむなかで、何故あんな良い子だった息子が不良になったんだろう?と思って、「不良化のメカニズム」を知ろうとする。この子がこうなったのは、あの時私がもっと…とか、いろいろ気付きが起きて、「客観的視点」を持つことが出来るようになって、共存するコツを得る。…治療法には手術・抗ガン剤による化学治療・放射線治療等々、部位、進行度などによって治療法が違う。その中で最終的には患者自身が治療法を選ぶのだが、判断の決め手は「情報」である。その情報の根拠は「エビデンス」(臨床試験のデータ)である。…病床にいるとき多くの患者は「想い出す」。子供時代のこと・故郷の山川・学生時代のこと・両親のこと・祖父母のことなどを想い出したり考えたりしていると、不思議に現在の自分の問題に立ち向かう勇気が出てくる。… 』。とこのようにまだ続くのだが、大変興味をそそられた本であった。是非ご一読をお勧めする。


 


  

投稿者 zuiryo : 2011年05月07日 04:43

コメント