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2009年08月27日

母の針跡

このところ急に朝晩涼しくなってきたので、掛け布団を少し厚めの物に変えた。季節の変わり目は肌着にしても布団にしても調節がなかなか難しい。がさごそ押入をひっくり返していたら、下の方から何年も日の目を見なかったこの季節ぴったりの掛け布団が出てきた。内側を白い布で一針一針縫ったもので、それが長い年月埋もれていたため黄ばんで、このままでは使用不能、早速糸をハサミで切って剥がした。これは十数年前、母がまだ元気だった頃に、私のために縫って置いてくれたものだった。実に丁寧な仕事で、パチンパチンと糸を切りながら、母の手の跡を忍び、涙が出るほど懐かしく、思わず手が止まってしまった。今時ならこんな面倒なことをする人は居ない。布団カバーを買ってきて、ひょいっと被せればそれでお仕舞い、何のことはない。当時でもその類のカバーは売っていたに違いない。明治生まれの母は万事質素倹約を旨とし、縫い込んだ白布も本来は別の用途に使われていたものを、再利用したものである。今となってはこれを洗濯し、再び一針一針縫う根気は私にはないので、感謝しながらも新しいカバーで間に合わせてしまったが、母のおもひは心に深く染みた。今は、日常生活の殆ど手を掛けず、食べ物もおやつも、衣服も何もかも、出来合いで済ましている。手製よりも旨くて綺麗かも知れないが、親の愛情は籠もっていない。そう考えて身の回りの物を見ると殆ど、大量生産品でちょっと古くなればどんどん新しく買い換えてきた物ばかりである。凡そ一つ一つの物に人の温もりなど何もない。たしかに機能的で、昔の物より遙かに上等だが、そう言う中に囲まれていると、こちらの心までぱさぱさになってくるような気がする。一口に親の愛情と言うが、母が亡くなってもう十数年も経ったのに、布団カバーひとつで、私の心をこれほどまで揺り動かすのだから、すごいものだな~と、改めて感じた。

投稿者 zuiryo : 2009年08月27日 13:22

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