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2010年09月16日

ぼけの皮

ばけの皮というのは当人がひそかに被り、他人によって剥がされるものだ。ところが「ぼけの皮」はなかなか重宝なもので、老人がまわりから面倒な仕事や嫌なことを強いられたとき、ちょっとぼけの皮を被ると、当たり障りが無くて便利である。また呆けたと思われ、いい加減に扱われそうになった時には、ちょいと皮を脱いでやるとうまくゆく。この話は80のお婆さんから聞くから面白いので、もし年が近ければ、話す側にも聞く側にも嫌な後味が残り、お婆さん同士ならこんな手の内を明かすような話しはしない。お婆さんと若い娘という女同士の組み合わせが話しの興を盛り上げるのだ。ちょいと脱いだりちょいと被ったりする、その「ちょいと」の軽妙さが良い。しかしそれは真似をして出来ることではない。これは矢張り人柄である。然も60代70代ではなく、80代に差し掛かったお婆さんだからリアリティーがある。そこには老いの功徳とでもいったものが隠されているように思える。老いが老いを逆手にとってより若い周囲に復讐する。その戦術を未来のお婆さんである若い娘に伝授する図と眺めれば、これもまた愉快な老いの光景の一つであると言える。と、幸田文がコラムに書いている。大変面白い話しなので引用させて頂いた。                               

投稿者 zuiryo : 2010年09月16日 21:09

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