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2010年05月03日

黒猫

うちの寺にはずっと前から専属の野良猫が居る。真っ黒ですばしこく、餌はきっと門前辺へ出掛けては調達し、悠々自適の生活をおくっている。隠寮の庭は殆ど誰もやってこないから、我が物顔に歩いている。庭の日当たりの良いところでドタ~と寝そべっているが、側を通っても知らんぷり、少しも慌てるところがない。まっ、さして実害はないので、幾ら居て貰っても差し支えないのだが、一つだけ困っているのは、つくばいに水浴びに来る小鳥を狙うことである。時々あたり一面小鳥の毛が散乱していることがあるので、やられたに違いない。三つあるつくばいの内で最も危険なのは、茶室の庭にある地面すれすれのつくばいである。まわりに蛇のヒゲが繁茂しているので、それが格好の隠れ蓑になって、小鳥を狙うのである。この間も庭の新緑を眺めながら、つくばいの周囲をふっと見ると、体を丸めて、まるで自分も蛇のヒゲになったような格好でうずくまって居るではないか。まあその偽装の旨いことと言ったらない。思わず笑ってしまった。手をパチンと打って脅かしてやったら、そそくさと山に逃げていった。そこで今日は、つくばいの周りの蛇のヒゲを丸坊主に刈り上げ、もう絶対に黒猫の奴が偽装できないようにしてやった。ついでにつくばいの中もたわしでごしごし洗って、ピッカピカに磨き上げた。うちにはこの黒猫のほかにも、痩せっこけた狸が一匹、下水の側溝で生活している。時たまこのつくばいの水を飲みに姿を現す。こっちは毛並みも艶々、体もまるまるの黒猫と違って、毛はばさばさ、体はほそほそ、見るからに哀れっぽく、栄養失調かも知れない。

投稿者 zuiryo : 2010年05月03日 20:48

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